飲食店のヒューマンエラーを防ぐ！
予約から会計までミスを減らす仕組みづくり
ヒューマンエラーの種類
ヒューマンエラーは人間の行動や判断が原因で意図しない結果を生み出してしまうことを指し、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」では大きく以下の2種類に分類されています。ここでは、それぞれの特徴を見ながら、飲食店などのサービス現場でどのようなミスが起こり得るのかを解説します。
ついつい・うっかり型
「やるべきこと」を理解していたはずなのに、気づかないうちにミスをしてしまうのが「ついつい・うっかり型」です。飲食店の現場では、オーダーミスや仕込み忘れなど日常的に発生しやすいエラーが該当します。以下のように、いくつかの要因に分類できます。
- 記憶エラー
記憶が曖昧で、聞いたこと・見たことを思い出せないために発生するミスです。たとえば、注文を受けた食材やメニューの変更点を覚えきれず、結果として本来のレシピや作業手順を飛ばしてしまうケースが挙げられます。
- 認知エラー
外部からの情報を聞き間違えたり、見落としたり、思い込みで誤認してしまうことで起こるミスです。店内が騒がしい時間帯にお客様の注文を取り違えたり、スタッフ同士の連絡を勘違いしてしまうなどの事例が代表的です。
- 判断エラー
正しい情報を得ていても、対応や優先順位の判断を誤ることで起こるミスです。ピークタイムに調理と配膳のどちらを先に行うか混乱したり、会計の処理手順を勘違いして余計な金額を請求してしまうなどが典型例です。
- 行動エラー
適切な判断をしていたとしても、実際の作業や操作段階で失敗してしまうミスです。レジの入力を間違える、調理器具を扱う手順を飛ばす、調味料を入れ忘れるなどが当てはまります。
- 全共通エラー
上記すべてのエラーに共通して、長時間労働や人手不足による疲労・ストレスが根底にある場合、集中力や注意力が大幅に低下してミスが起こりやすくなります。体調不良や精神的なプレッシャーが重なるほど、うっかりミスの頻度は高まる傾向にあります。
これらはあくまで意図せず起こるミスであるため、店舗全体のオペレーションと従業員のコンディションを整え、エラーを発生させない仕組みづくりを行うことが大切です。
あえて型（危険軽視タイプ）
もう一方のヒューマンエラーは、「やるべきこと」を分かっていながら手抜きをしたり、ルールを守らないことで起きるミスです。こちらは単なる“うっかり”ではなく、面倒くささや慣れによる油断など、自覚的に行動を省略する点が特徴です。飲食店の例としては、以下のような状況が挙げられます。
- 手抜き・サボりによるミス
作業手順を省き、必要な確認をしないことで売上や在庫に誤差が出るケースです。たとえば、レジ処理後の金額照合を怠って会計が合わなくなる、売れたメニューの在庫補充をしないまま営業を続けるなどが代表例です。
- 慣れ・過信からの油断
業務に慣れることで「これくらい大丈夫」と思い、あえてルールを守らない行動が増えてしまうケースです。特にピークタイムの混雑時など、忙しさを理由に本来行うべき工程を飛ばしてしまうと、後々大きなトラブルにつながる可能性もあります。
「あえて型」のヒューマンエラーは、規則を守る意義を理解できていない・職場の教育や管理が行き届いていないといった環境的な問題も含んでいます。従業員が「なぜこの手順が必要なのか」を認識し、現場全体でルールをきちんと共有しておくことが予防策になります。
ヒューマンエラーの発生を防ぐには、どのエラーが起きやすいかを具体的に把握し、それぞれの原因に合った対策を講じることが重要です。飲食店の現場では、人手不足や繁忙時間帯の多忙さを理由にオペレーションが乱れやすいため、仕組みづくりとスタッフ教育の両面から改善を進める必要があります。
飲食店のヒューマンエラーを防ぐ方法
飲食店では予約・注文・調理・会計など、多岐にわたる業務をスタッフが分担しており、それぞれの工程でヒューマンエラーが起こりやすい環境にあります。ここでは、シチュエーション別に発生しやすいミスの例と、その対策方法をそれぞれ文章で解説します。
【予約】予約受け付けミスを防ぐ
飲食店でよくあるのが、予約を受けたつもりでも実際には予約が記録されていないケースです。忙しい時間帯に口頭で受けた予約をメモし忘れたり、別のスタッフと情報が共有されずに漏れてしまうことが原因となり、当日になって「空きがないのに予約客が来店してしまう」「予約したはずなのに登録がない」といったトラブルを引き起こします。こうしたミスは来店時の混乱やクレームにつながるため、店舗の信頼度を下げてしまう大きな要因です。
対策
このような予約のヒューマンエラーを抑止するには、予約管理システムを導入して受付を半自動化するのが効果的です。システムを使えば、日時や人数、コースなど必要な項目を事前に入力必須に設定できるため、聞き漏らしや書き忘れが大幅に減ります。さらに複数店舗を経営している場合は、空き状況を一元的に把握できるため、満席の場合でも別の店舗に案内できるなど、機会損失を防ぐメリットもあります。
メニューを覚えきれず、オーダーに時間がかかるミスを防ぐ
新人スタッフやメニュー数が多い店舗では、メニューをすべて暗記するまでに時間がかかり、スムーズにオーダーを取れないことがあります。メモや紙の注文票だけを頼りにしていると、慣れないうちはメニューを探すのに手間取り、お客さまを待たせてしまうリスクも高まるでしょう。注文に時間がかかるとスタッフ自身も焦りやすく、聞き間違いや書き間違いといった別のミスが連鎖的に発生する恐れがあります。
対策
こうしたオーダーミスを防ぐには、ハンディーターミナルを導入して手元でメニューを確認できる環境を整えることが有効です。新人スタッフでも端末を操作しながら商品名や価格を確認できるため、オーダーのスピードと正確性を同時に高められます。また、口頭での復唱を徹底すれば、お客さまとのやり取りで認識のズレが生じにくくなり、接客クオリティの向上にもつながります。
オーダー内容の伝達ミスを防ぐ
ハンディーターミナルで注文を取ったとしても、そこからキッチンへ情報を正しく伝達できなければ、間違った料理を作ってしまう可能性が残ります。忙しい時間帯に口頭で「追加注文が入りました」などと重ねて連絡をしていると、どれが最新のオーダーなのか混乱してしまい、結果的に配膳ミスが起こることも少なくありません。
対策
対策としては、オーダーエントリーシステム（OES）を導入し、ホールスタッフが入力した情報をそのままキッチンと共有する方法があります。デジタルで情報を連携することで、人的な伝達ミスを極力減らし、提供ミスや時間のロスを最小限に抑えられます。レジとの連携もスムーズになるため、最終的に会計や売上管理の効率化にも寄与します。
スタッフ不足によるオーダー遅延を防ぐ
スタッフが少ないホールでは、どうしても注文を取りに行くまでに時間がかかり、お客さまをお待たせする機会が増えます。オーダー漏れや順番待ちの混乱が起きやすいため、クレームにつながる大きな要因でもあります。繁忙期やピークタイムでは、限られた人数で全テーブルをカバーしようとして、結果的にヒューマンエラーのリスクが高まってしまいます。
対策
こうした問題の対策としては、券売機やセルフオーダーシステムの導入が効果的です。お客さま自身で注文や会計を完了できる仕組みにすることで、人手不足をカバーしながらオーダーミスや遅延を減らせます。特に回転率を重視する店舗やスタッフが集まりにくい新規オープンの店舗などで重宝される方法です。
調理ミスや食材ロスを防ぐ
ランチやディナーのピーク時には複数の注文が一気に入るため、どの料理を先に仕上げるべきか、どのテーブルへ運ぶべきかを見誤りやすくなります。手書き伝票が紛失したり、スタッフの人数が足りずに作業フローが混乱すると、同じメニューを二重に作ってしまうなどの食材ロスも増えがちです。
対策
このような調理現場のヒューマンエラーには、キッチンディスプレイの活用が有効です。ハンディーターミナルやオーダーエントリーシステムと連動させておけば、テーブルごとやオーダー順にディスプレイ上で作業指示を管理できます。手書きの伝票に比べて情報の抜け漏れが少なく、調理の手順や提供の優先順位を可視化しやすいため、効率的にオペレーションを回せるようになります。
注文内容と会計金額の不一致を防ぐ
忙しい時間帯にレジ操作を行っていると、オーダー内容を正しく打ち込んだつもりでも、個数や単価を間違えて過剰請求・不足請求につながってしまう場合があります。お客さま側から指摘を受けないまま気づかずに終わると、後で売上と現金が合わない事態を招き、店舗管理者にとって大きな頭痛のタネとなります。
対策
この問題を解決するには、オーダーエントリーシステムとPOSシステムを連携させて、自動的に金額を反映させる方法が効果的です。入力や計算の手間が少なくなるほどヒューマンエラーの発生率が下がり、スタッフの作業負担も軽くなります。結果としてレジ締め作業もスムーズに進み、経営分析用のデータ精度も向上するでしょう。
おつりの渡し間違いを防ぐ
慣れたスタッフでも、ピークタイムにレジを担当するとおつりの計算を間違えるリスクが上がります。会計が立て込むと数えるスピードを優先しがちで、過不足が出た時にその場で気づけず、後々になって金額が合わないことに気づくケースも珍しくありません。
対策
このようなミスを防止するには、自動釣銭機の導入がおすすめです。レジで入力された金額に対して必要なおつりを自動で排出してくれるため、金銭の受け渡しによるヒューマンエラーを最小限に抑えられます。新人スタッフでもミスが起きにくくなるうえ、軽減税率対策補助金などを活用できれば導入コストを抑えられる利点もあります。
ヒューマンエラー対策は「仕組みづくり」がカギ！
飲食店でヒューマンエラーを防ぐには、スタッフの意識改革やオペレーションの見直しが第一歩です。特に、うっかりミスが発生しやすい注文や会計の場面では、券売機やセルフオーダー、POSレジなどのデジタルツールが大きな力を発揮します。これらを適切に導入することで、業務負担を減らしながらミスをゼロに近づける仕組みづくりが可能です。結果として、スタッフの負担軽減と顧客満足度の向上を同時に実現でき、より円滑な店舗運営へとつながります。
